スポーツ・カウンセリングといっても、今回お話するのは、カウンセラーの技法など専門的なことではなく、現場のコーチやリーダーとして、日々の活動の中で心理的な問題にどう取り組むかということを、簡単にお話ししたいと思います。
東京工業大学の石井教授によると、カウンセリングとは、「自己成長を目指したり、問題や悩みを訴えるクライエントに対して、カウンセラーが主に言語的、非言語的コミュニケーションによる人間関係を通して心理的 に援助していく営みである」と定義づけています。 すごく難しい表現を使っていて分かりにくいのですが、要するに「サーブが入らないとかスパイクが決まらないなどで、悩んでいるプレーヤーに対し、指導者が表情や言葉を使ったり、態度で示したりしてコミュニケーションをはかり、心の支えになること」です。
カウンセリングは、むやみにコミュニケーションをとるのではなく、心理学に基づいた理論・技法で行うのですが、この理論がたくさんあり非常に分かりにくいのです。 「対象者(悩んでる人)にあわせて使い分けろ」とカウンセリングの専門家 は言いますが、私たちには無理です。皆さんに、「無理だ」ということを 実感していただくために、代表的な理論を以下に紹介します。
【例】最近サーブが入らないと悩んでいるプレーヤーに対する カウンセリング
- 精神分析理論
自分でも気づかない無意識的な不満を抱えているからサーブが入らない。だから、その不満を気づかせ、問題を解決すればサーブが入るよ うになる。
- 自己理論
「バレー暦が長いのだからサーブなんか入って当然と思っているのに実際は失敗ばかり」など、思い込みと現実のギャップに悩んでいるからサーブが入らない。「バレーも長くやってりゃ、サーブが入らない こともあるさ・・・」という気持ちにさせれば、理想と現実のギャップに惑わされることなく、本来の力を発揮できるはず。
- 行動主義理論
「タイムアウト直後のサーブって、失敗することが多いんだよなあ」 などと思っていると本当に入らなかったりする。これは、一定条件下での経験則が行動に悪影響を及ぼしているからだ。そこで、指導者が、新たな条件付けをする。「ネット上50センチを狙え」と具体的に指示し、このサーブが入れば新たな経験則になり、次からも「ネット上 50センチを狙えば入る」と思うようになる。
- 特性・因子理論
肩の力が弱いのにオーバーハンド・フローターサーブを打っていたり、自分の特性に合わない方法では、入るサーブも入らなくなる。 そこで、個々人に合った打ち方を「こんなサーブもありますよ」と情報提供する。
- ゲシュタルト理論
「サーブは白帯ぎりぎりを通り、バックの選手の間に落とさなければ ならない」などと、激しい思い込みがあると、狙いすぎてかえって入らないことがある。このような場合、指導者は「レシーブの上手なあの選手の正面に打たなければOK」と、考え方の視点を柔軟的に変えさせると良い。
- 交流分析
これは、例示するのが難しい理論です。強いて言えば、「怒る人・怒 られる人が決まっている」と人間関係がワンパターン化し、やる気が なくなるので、円滑な人間関係を構築し改善するということです。
以上、見てきましたが、素人に専門的なカウンセリングが無理なこと、 ご理解いただけたでしょうか。ただ、どの理論においても相談する側とされる側の信頼関係が重要だと言っています。信頼関係があればこそ、 思っていることを打ち明けることが出来、そこから現状把握へと繋がるのです。
シドニー五輪女子マラソンの金メダリスト高橋尚子選手を育てた小出義雄監督は「きみなら出来る」と選手を誉めて育てるそうですが、これも立派なカウンセリングです。レース終了後の二人の姿を見れば、信頼関係がよく分かります。 これに対し、プロ野球の中日ドラゴンズの星野監督は、「そんなことは出来ん、1対1なら、誉め育ても出来ようが、こっちはチームスポーツだ。 厳しくやらしてもらう」といっているそうです。鉄拳制裁も辞さない同監ですが、選手との信頼関係は厚く、関川選手などは「監督のためなら何 でもやる」と語っています。小出監督は言語的、星野監督は非言語的コミ ュニケーションを使っているんですね。
実際にクラブを運営したり、チームを指導する場面でのカウンセリングは どのように進行していくかについて、以下に書いてみます。
- 理解する
特に、個別相談というようなことはせず、日常の練習の中や、練習外の 雑談などで、個々のプレーヤーが何を考え、何を悩んでいるのか、また、 各人の性格はどういうものかを的確に理解します。 性格の理解のために、心理検査をしてみるのも良いと思います。 いろいろな種類がありますが、金子書房から発売されているTEGエコグラ ム・プロフィールをおすすめします。
- 問題点の発見
直接本人から相談を持ちかけて来る場合もありますが、たいていの問題 は潜在的です。日々の行動の中から発見せざるを得ないことがほとんどです。また、「こういうことが問題だ」と訴えられても、実際は他のところ に問題があることがしばしばなので、コミュニケーションを高めて、本質に迫らなくてはなりません。
- 問題解決プログラム
問題がはっきりしたら、次は問題解決の方法を示し、実践していきます。 例えば前出の「サーブが入らない」という場合の問題点が、「肩の力が弱 いのにオーバーハンド・フローターサーブを打っていた」とします。 この場合、肩の弱さを本人とともに確認し、肩を鍛えるか、打ち方を変えるか、について話し合います。方針が決まれば、トレーニングメニューを作成 し実行します。
- 評価
実行した結果、プログラムに有効性が合ったかどうかを評価します。記録を取って定期的に判断します。結果によっては方向性を修正したり、目標を変えたりすることが重要です。
ここまで見てきたとおり、「カウンセリングとは」などと、難しく考えなくても、指導者は日常的にカウンセリング的行為をやっているんですね。 ただ、今よりも少しだけ意識的にやれば、問題が未然に防げたり、スランプの期間がちょっと短くなったりするかもしれません。 途中で触れた「TEGエコグラム・プロフィール」は、本当に面白いので、 是非やってみてください。大きな本屋さんで売っています。