サッカーやバスケットなど、スポーツで相手を欺くプレーを、フェイク
とかフェイントと言います。
フェイクとフェイントの言葉としての正しい使い分けはよくわかりませ
んが、一般的にバレーボールでは、スパイク時に指の腹でプッシュする
攻撃を「フェイント」と呼びます。これに対し、直接ボールに触れてい
ないときに、相手をだますためにする動作を「フェイク」と呼ぶことが
多いです。
セッターをはじめ、様々なポジション、様々な場面でフェイクは用いら
れますが、今回は、スパイカーのフェイクについてお話します。
ミュンヘンオリンピックで金メダルに輝いた、元バレーボール男子代表
の森田淳悟選手(現強化委員長)は、大学4年生のときに一人時間差を編
み出しました。
産経スポーツの「スポーツCENTURY」を抜粋します。
Http://www.sanspo.com/morespo/century/century0020.html
1969年のある日、日体大バレー部の練習時間のこと。4年生のセ
ンター森田選手は攻撃の中心で、チームのスパイクの9割方を1人で
打っていた。当然、相手も徹底的にブロックでマークしてくる。それ
を想定したクイック(速攻)の練習中、セッターとのコンビが合わず、
何とか返そうと跳んだら、ブロックがいなかったのだ。
偶然のミスがブロッカーのタイミングを狂わせた。
当時の日本バレーの技術は、9人制をオリジナルとするものばかり。
全日本メンバーは銀メダルの68年メキシコ五輪後、「何でもいいか
ら6人制独自のものを考えよう」と、話し合っていた。
「これはいけるかも」。森田選手は、そう感じた。同じ体育館ではバ
スケットボール部も練習していた。フェイクを入れながらシュートす
る姿を見て、予感は確信に変わっていった。跳んだと見せかけてブロ
ッカーを跳ばせ、相手が落ち始めるころに再度跳んで攻撃する−。一
人時間差の誕生だ。
これが、有名な一人時間差の誕生エピソードです。
これを見て分かるとおり、スパイカーのフェイクは、「いかにブロッ
カーを外すか」が目的です。
今日では一人時間差や速攻・コンビなど、攻撃の多様化が進みましたが、
これに対応すべく、ブロックの技術や戦術も進歩し、単純にタイミング
を外すだけではブロックを抜くことは難しくなってきました。
現に、最近のトップレベルでは、セッターの2アタックから後衛のバッ
クアタックまでの時間差&地域差攻撃(組織的フェイク)を踏まえた上で
の「パワー&高さ」(個人能力)を重視した攻撃が主流です。
また、リードブロックやソフトブロックのように、「ワンタッチして、
レシーブしやすくできれば成功」という戦術の前で、フェイクはどれほ
どの意味を持つのかという疑念さえ生じます。
しかし、私のような初級から中級レベルでは、スパイカーの個人的な
フェイクでブロックを抜くいてポイントを稼ぐことが出来ることが多い
ですし、少なくともブロッカーのタイミングを遅らせ、ドンピシャの
シャットアウトを免れることが出来ます。
特にベテランプレーヤーともなると、ゲームの勝ち負けもさることなが
ら、スパイカーとブロッカーの局面的な勝負の駆け引きを楽しんでいる
プレーヤーも多いですね。
スパイクを打つ流れの中でフェイクを入れることが出来る局面は、以下
の4つです。
相手のブロッカーを確認する際の視線
助走のステップ
踏み切り
空中
■相手のブロッカーを確認する際の視線でのフェイク
自チームのレシーブの後、ボールがセッターの手に入る前、あるいは直
後に、スパイカーは相手ブロッカーの位置を確認しますが、同時に相手
ブロッカーは、セッターの動きやボールの軌道とともにスパイカーを確
認します。
このとき、スパイカーがクロスに視線を合わせていれば、ブロッカーは
「クロスに打ってくる」と思いがちです。そう思わせておいて、スト
レートを打てば、決まる確率は高まります。
視線でのフェイクはビーチバレーで普通に行われていて、レシーバーは、
スパイカーの視線の逆に位置取ったり、裏をかいて、視線の逆に動く
フェイクを入れてそのままの場所にいたりして、駆け引きを楽しんでい
ます。
■助走のステップ
3歩助走にせよ2歩助走にせよ、最初のワンステップで、本当に打つの
とは反対側にステップを切れば、ブロッカーが遅れる可能性があります。
東京ヴェルディの吉田元監督は自著の中で、
(フェイクは)たとえ相手チームがリードブロックで待ち構えていて
も有効である。リードブロックではサイドブロッカーは最低限、アウ
トサイドで攻撃するアタッカーを周辺視で捉えていなければならない。
そのとき、アウトサイドのアタッカーがステップフェイクを用いれば、
ブロッカーのポジショニングを一瞬でも遅らせることが出来るし、ブ
ロッカー同士のコミュニケーションを混乱させることが出来る。
と言っています。
また、バレーボール技術誌「CPV」20号の岩島氏の記事によると、
(全日本男子の田中幹保監督の現役時代は、逆ステップは入れずに)
動かないでいて、最後の1歩の速さでブロックを送らせる助走をして
いました。最後の1歩の助走が最も重要で、ある程度の高さとパワー
があれば、それだけでもブロックを打ち抜くことが出来ます。
としています。
■踏み切り
私はいわゆる逆足です。腕は右利きですが最終ステップは、左・右です。
このことにより、レフトからのスパイク時に、クロスに助走し、踏み切
りで最後の右足をずらし、ストレートに正対してジャンプすることが可
能です。
普通の踏み切りであれば、その逆で、ストレートに助走をとり、クロス
に向くことが出来ますね。
また、最近では踏み切りで違う位置に飛ぶ「ブロード」という攻撃が一
般的に行われています。
ブロードといえば、以前、女子の大林選手が見せた豪快な片足踏み切り
の移動攻撃が有名ですが、あれ程移動しなくても、効果的な攻撃が可能
です。
要は、踏み切りの位置とヒットする位置をずらせてブロッカーを遅らせ
ようという訳です。
前出の東京ヴェルディの吉田監督の著で、以下のようなバリエーション
を掲載しています(ごく一部)。
| ポジション | 踏み切り | ヒット |
| レフト | B | A |
| ライト | C | A |
| センター | C | A |
| センター | B | A |
| センター | A | C |
| ライト | D | C |
表の一番上の例でいうと、レフトスパイカーが、Bクイックの位置で踏
み切り、ブロードしてAクイックを打つということです。
■空中
ジャンプの後、上体を起こすときに、体をねじり、打つコースを変えま
す。これは一般的に行われています。
逆に、ジャンプした後、体をねじらずに、同じ姿勢でボールのヒットポ
イントだけをずらす方法もあります。右利きのレフトスパイカーの場合、
右肩よりも外のボールをクロスに、体の中心線よりも左のトスをライン
に打ちます。このとき、顔をボールの方に向けるとブロッカーに読まれ
ますので、周辺視でボールを捉えるようにします。
空中でのフェイクは、トスがネットに近いときに有効です。これは同時
にブロッカーに近いことを意味します。ブロッカーはトスがネットに近
いと本能的にハードブロックで叩き落そうとしますから、フェイクが効
かずに捕まってしまうと、相手のポイントに結びつく可能性が非常に高
いといえます。
ですから、視線や助走でのフェイクで、相手ブロッカーをつり出してお
いて、空中で反対に抜くことが重要です。
バレーボールは競技の特性上、ボールにコンタクトしている時間が非常
に短いスポーツです。ゲーム中のほとんどの時間はボールに触っていま
せん。したがって、ボールに触れていないときにどう動くかということ
を意識しなければなりません。
「ボールを触ってないときにフェイクで相手を動かす」これは、数値に
は表れませんが、とても大切な技術です。