ゲーム理論
は、1940年代にフォン・ノイマンとモルゲンシュタインによって
創始され、1994年にナッシュ、ハルサーニィ、ゼルテンの3人の
ゲーム理論研究者がノーベル経済学賞を受賞した 比較的新しい
分野です。
「ゲーム理論」は、複数の人間が関わる意思決定の問題を数値に
置き換え合理的行動を分析する手法です。手法そのものは多分に
数学的で難しいのですが、扱う分野は経済はもとより、交渉ごと、
スポーツなど、実際的分野に広がっています。
今回ここで、バレーボールのゲーム全体をゲーム理論で分析する
のは、複雑すぎてここではまず不可能なので、状況を単純化し、
分析の流れを説明していくこととします。
| 設定 |
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| AチームとBチームが9人制(ローテーションがない)で戦ってい ます。
Aチームのスパイカーはレフトオープンの1人だけ。他の人は打 ちません。また、このスパイカーはクロスとストレートに打ち分
けることが出来ます
Bチームは相手スパイカーに対しブロックに飛ぶのは1人だけ。 他の人は飛びません。このブロッカーは、ストレートを予測して
ジャンプし、実際にストレートが来たときは、「80%」の確率で シャットアウトが出来ます。逆をつかれ、予想に反してクロスが 来たときは「20%」です。また、クロスを予想して実際にクロス
が来たときは「60%」、逆をつかれた場合は「30%」の確率です。
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分かりにくい説明になってしまったかもしれませんが、要は「A
チームからBチームへの攻撃の際は、必ず同じ人がスパイクとブ
ロックに飛び、ブロッカーにはコースによっての得手不得手があ
る」ということです。
このブロッカーの数値を見るとストレートを止めるのが得意であ
ることが分かります。そうするとスパイカーはクロスを狙ったほ
うが良いような気がしますね。でもブロッカーも相手の裏を読ん
でクロスに飛んだりして、スパイカーがまたその裏を・・・・考
えれば考えるほどよくわからなくなってしまいます。
スパイカーがストレートだけを狙って、ブロッカーもストレート
を待っている状況だと 80%はシャットアウトされるのですから
スパイカーは、コースを打ち分けた方が得なのは計算するまでも
ありません。でも、どの程度の割合で打ち分ければ一番効率的な
のかは直感ではわかりませんね。
こういう場合、ゲーム理論では「混合戦略」というツールを使っ
て最適な戦略を導きます。
まず、設定条件のブロック成功率を表にします
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スパイカーの打つコース |
| ブロッカーの予想 |
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クロス
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ストレート
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| クロス |
60%
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30%
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| ストレート |
20%
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80%
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次に、スパイカーがクロスに打つ割合を X とします。クロスと
ストレートに打つ割合は
クロス:ストレート=X:(1-X)
で
すね。
これに対しブロックの成功率を Y としますと、ブロッカーがク
ロスに飛んだときの成功率は
Y=0.6X+0.3(1-X)
ストレートに飛んだときの成功率は
Y=0.2X+0.8(1-X)
となります。
中学校の数学を思い出してください。
Y=0.2X+0.8(1-X)
Y=0.6X+0.3(1-X)
2次方程式ですね。
これを解くと、X≒0.56 Y≒0.46 です。
これは両方の式のグラフの交点でもあります。
この式と値で何がわかるかというと、スパイカーにとって44%
(1‐X)の割合でクロス、56%(X)の割合でストレートに打てば、
ブロックの成功率を 46%(交点のYの値)に抑えられるというこ
とです。
上記二つの式は、Yを最小値(ブロック成功率の最小値)にするた
めにはXをどの値にすればよいかを計算した式といえます。
スパイカーが全てストレートに打ち、ブロッカーが全てストレー
トに飛んだときの80%のブロック成功率に比べ46%というのはか
なり低いパーセンテージですね。
このように、スパイカーにとっての最大損失80%のブロック成功
率を、最小の 46%に抑えようとする戦略を「ミニマックス戦略」
といいます。
ここまでは「スパイカーにとって」という一面的な計算でしたが、
反対に、ブロッカーはどのくらいの割合でクロスに飛べばよいか
という計算をします。
ブロッカーがクロスに飛ぶ割合を X とします。正式な研究レポー
トなどでは、スパイカーの場合と区別するためQとかPなどとす
るのですが、ここでは皆さんに馴染み深い2次方程式にちなむた
めに、クロスに飛ぶ割合をX、ストレートに飛ぶ割合を 1−X
とさせていただきます。クロス:ストレート=X:(1-X)で
す。
このときのブロックの成功率を Y としますと、ブロッカーがク
ロスに飛んだときの成功率は
Y=0.6X+0.2(1-X)
ストレートに飛んだときの成功率は
Y=0.3X+0.8(1-X)
となります。
先ほどと同じように2次方程式で解を求めますと、
X≒0.67 Y≒0.46 です。
これも同じ考え方から、ブロッカーは33% (1‐X)の割合でクロ
ス、67%(X)の割合でストレートに飛べば、ブロックの成功率を
46%(交点のYの値)まで上げられるということです。
46%という値は、ブロックの全てをストレートに飛んで、スパイ
クの全てをクロスに打たれたときの 20%というブロック成功率
に比べると高い確率ですね。
このように、ブロッカーにとっての最小利益20%のブロック成功
率を、最大の 46%に上げようとする戦略を「マックスミニ戦略」
といいます。
さてここでは、スパイカー、ブロッカー両者ともブロック成功率
46%を目指しています。バレーボールのように片側が1点取ると
もう一方が1点失うゲームのことをゲーム理論では「ゼロ和ゲー
ム」と言い、ゼロ和ゲームにおいて、一方が相手の最大利得を最
小としようとし、もう一方は自らの最小利益を最大にしようとす
る場合、最大利得の最小は、最小利得の最大に等しくなります。
これを「ミニマックス定理」と言います。
分かりやすく言えば、自分のチームのよいところを活かす戦略を
片側が取れば、敵チームは相手側の良い所を殺そうとする戦略を
取り、両チームの思惑が完全にうまく行けば、落とし所は両チー
ムとも全く同じとなるということです。
今回の例のように、お互いが目指した落とし所であるブロック成
功率「46%」という数字はゲーム理論で「鞍点」と呼びます。鞍
点を目安にすれば、戦略がうまく行ったかまずかったかの判断が
出来ますね。
ゲーム理論では、混合戦略のほかに様々な考え方やツールがあり、
色々な場面に沿った問題解決法があります。もちろん今回の混合
戦略も、もっとシチュエーションに落としこんで複雑に分析する
ことも可能です。
「ゲーム理論といっても しょせんは机上の論理」と一笑に付す
のは簡単ですが、「なぜ負けたのか分からない」「いつも同じチー
ムに同じように負ける」といった場合、ゲーム理論を取り入れて
みることも有益ではないかと思います。