映画化された小説「不夜城」で有名な馳星周さんが、スポニチのサッカーコラムで、「高校生のサッカープレーヤーにケガを押してまで出場させるのはいかがなものか」という話をされていました。以下はその要約です。
メディアは優勝した国見のサッカーの内容が時代に逆行していることを盛んに取りあげていたが、たかが高校のクラブチームで戦術云々といったっ
て、しょうがないではないか。楽しくサッカーをやっていればそれでいい。 わたしが気になったのは、右の膝をテーピングでがちがちに固めていた選手の痛々しい姿だ。
異論のある人もいるだろうが、たかが高校サッカー なのだ。将来ある若者に、そこまでの無理をさせていいものなのだろうか。 プレイしているのは17、8の若者だ。彼のサッカー人生はまだ先が長い。
過去にも多くの才能ある若者が、高校時代に身体のどこかを痛め、ピッチから去っていったのではなかったか?
まさにそのとおりだと私も思います。本人にとっては晴れの舞台。一生に一度のイベントではありますが、そこで怪我を悪化させ、これからの一生を台無しにしては意味がありません。
正月の全国高校サッカーでは、前出の国見高校の選手以外にも、左足骨折 をおして2試合連続でスタメン出場し、80分をフルに走り回ったS商の選手や、足首のねん挫などで、4人が痛み止めの座薬をして試合に臨んだM高校など、「勝利のためなら腕の一本や二本はどうってことない」
という勝利至上主義が全国大会レベルでは蔓延しているようです。
どんなスポーツでもそうですが、「あのケガがなかったら今ごろ・・・」という人はたくさんいます。スポーツはある程度の危険を受忍しながら行うもの
なので、不可避的な側面は確かにあります。しかし、出来るだけケガをしないように、また、ケガを悪化させないようにすることは出来るはずです。
自分で自分の状況を判断できる大人ならともかく、未熟な若者は指導者を はじめとする大人が、配慮してやらなければなりません。 痛み止めの座薬を使わなければプレーできないような選手をゲームに出場
させるなんてもってのほかだとおもいます。
高校生くらいの思春期は将来よりも今を大切にする時期です。強い信頼関係で結ばれた指導者に「出場 してくれ」と言われれば、意気に感じて無理してしまいます。たとえ本人が望んでも「休め」と言うのが、成長期におけるスポーツ指導のあるべき
姿だと思います。
技術情報誌「Coaching
& Playing Volleyball」 で、FIVB(国際バレーボール連盟) のコーチ養成コースのインストラクターを務めるハミド・ワシミ氏が、
「日本のナショナルチームは他国と比べると若い部類に入るにもかかわらず、故障を持つ選手が非常に多い」と言っています。これは、日本のトッ
ププレーヤーの寿命が短いことを意味します。同氏は、バレーボールにおける勝利の要因を「高さ」「強さ」「経験」としてあげており、成長期に多くの故障を抱え、世界の桧舞台に立つころには、もうボロボロという状態では、プレーヤーとして長続きせず、勝利の要因たる「経験」が得られません。
身体能力は同等でも、このままでは「経験をつみ、勝つことを熟知した、 故障のない世界のトッププレーヤーに勝つことはできません」(同氏)
他国と比べて若年層の故障が多いのは、成長期におけるトレーニングや練習に原因があると考えられます。指導者は正しい知識をもって指導にあたらなければ、プレーヤーの将来をつぶしかねません。
ケガで病院を訪れる人を年齢別に見ると、10代が圧倒的に多いです。これは、学校のクラブ活動や体育の授業などで、スポーツをする機会が多いからだと考えられます。ですから、成長期対象の指導者は、成長期の身体的特徴やケガについて、より深く理解する必要があります。
ケガには「急性のケガ」と「慢性のケガ」があり、前者は1回の大きな力でおこるものをさし、捻挫・脱臼・骨折などが代表的です。これは大人にも起こるケガですが、成長期の特徴としては、少しの衝撃でも重症となることがあげられます。骨折が多いのも特徴のひとつです。その骨折も、ポッキリとは折れず、割れるとか裂けるようにおこります。後者の
「慢性のケガ」は、1回にかかる力は小さくても、同じ部位に繰り返し働くことにより起こるケガです。「慢性のケガ」は後遺症を残すことが多いので特に注意が必要です。
「急性のケガ」は、いくら注意しても、偶然に起こってしまうものです が、「慢性のケガ」は指導者が、ある程度防止することが出来ます。
成長期の障害は、体が未発達であるにもかかわらず強度の負荷がかかった り、何度も繰り返される運動の負荷が一か所に集中することによっておこります。これは、本人の先天的な異常や柔軟性の欠如などにも原因がありますが、ほとんどは、
- 間違ったトレーニング方法・量、
- 誤った技術、
- 不適切な用具、
- 床面やグランドの状態、
- 靴やサポーターの不具合
など本人以外の要因によって引き起こされます。 これらを防ぐには、指導者の正しい知識が絶対不可欠です。しかし、成長の段階や筋力などは個別性があり、いくら配慮しても絶対におこらないよ
うにするのは不可能ともいえます。成長期の障害は徐々に蓄積されるものが多いので、進行段階での発見はなかなか難しいものです。ですから、成長期の障害特有の症状を把握し、早期の発見を心がける必要があります。
以下 に代表的な成長期の障害をあげましたので、参考にしてください。
■オスグッド病(オスグッド・シュラッテル病)
膝のお皿の下あたり、すねの骨の一番上のところが突き出て、その部分を 押すと痛みがでるものです。走ったり正座をすると痛みが強くなるのも特
徴です。骨の成長期である小中学生(特に男子)に多く発生します。どのよ うに起こるかというと、骨が未成熟な段階で、頻繁に屈伸すると太ももの
筋肉が、膝のお皿とすねをつないでいるじん帯を引っ張り、すね上部の軟 骨が硬くなって(骨化)突起が出来たり痛くなったりします。 痛みを発見したら、まず、練習を休ませ、痛みを誘発するような動作(膝
を屈伸するといった)を、最小限にとどめること、また、太もものスト レッチを十分に行うことが大切です。骨の成長とともに痛みがなくなるも
のが多く、手術の必要はほとんどありません。予後はきわめて良好です。 年長になっても、骨の突出は残りますが、痛みはほとんどの場合骨の成熟
完了とともになくなります。もし、骨の成長完了後(一八歳以降)にも痛 みがあるようなときはレントゲン写真を撮り、小さい骨片が残っている場
合には、この骨片を手術的に取り出すことで痛みをとることができます。
■シンディング・ラルセン・ヨハンソン病
これは、オスグッド病と同じ原因でおこります。10歳前後に多く見られる もので、オスグッドはすねの上部でしたが、こちらは膝のお皿の下のとこ
ろに炎症を起こすものです。痛みを発見したときの対応は、オスグッド病 と同じです。
■ジャンパー膝
骨格系が成熟してきた高校生に多いケガです、頻繁にジャンプ・着地を繰 り返すことによって、膝にいろいろな形で負荷がかかって膝のお皿の下の
じん帯が炎症を起こし痛みをおぼます。ひどくなると膝を曲げるのも辛 く、椅子に座っているのも辛いことがあります。ジャンプの回数の最も多
い、センタープレーヤーとエースアタッカーに多くみられます。これも対 処法はオスグッドと同じですが、太ももの筋肉強化も有効です。
■シンスプリント
私の運営するサイト「バレーボールガイド」 の「スポーツドクターによるケガの相 談」にシンスプリントについての話があったので要約します。
シンスプリントは運動をするとすねの内側が痛くなる慢性的なスポーツ障 害です。原因はいくつか考えられています。一般には「すねの骨の形が悪
かったり、下肢が曲がっていたりする」「運動する時の下肢の構えや フォームが悪い」「足と足関節の形が悪い」「運動する床面(路面)が硬す
ぎる」ために筋肉が過度に使われてしまい筋肉と骨との付着部に過剰な牽 引力がかかり筋膜(筋肉を覆う膜)と骨膜(骨を覆う膜)に炎症が起きて、痛
みが出てきます。 対策は、効果をすぐ期待できる方法として路面からのショックを吸収する 素材を使ったシューズへの変更があります。費用的には少しかさみます
が、スポーツ用品店でそのような吸収剤が使われたランニング用のシュー ズの購入を検討してみて下さい。運動をしながらの方法としてスポーツ用
のシューズの内側ソール(足底板)の使用があります。これはすねの形が悪 かったり、足首の形が悪い場合に特に有効です。自分の足に合ったものを
使わなければ効果は低いので専門的に作成をしているトレーナーや理学療 法士に依頼する必要があります。また構えやフォームが悪い場合で起きた
シンスプリントに下肢に負担がこない動きを誘導することが可能となりま す。 足関節の柔軟性が少なく、シンスプリントを起こしていく場合では膝関節
と足関節を深く曲げた状態でのストレッチングが有効です。現在、「スト レッチボード」といって踏み台が斜めに傾斜した専用のストレッチング器
具が発売されていますので、これを使うとさらに効果的なストレッチング が簡単に出来ます。
指導者は成長期の子供の痛みの有無を注意深く観察し、異常が見られたら 出来るだけ早く専門医の診察を受けさせることが重要です。今回は症例の多い足についてのみ取り上げましたが、この他に「腰」「ひじ」「肩」などにもケガは起こります。成長期の特徴を良く理解して指導にあたる必要があります。成長期の身体的特徴を大まかにあげると以下のとおりです。
- 関節は骨の部分が少なくてほとんど軟骨で構成されいるため外傷を受 けやすい。
- 関節を支持している靭帯、腱や筋肉が弱いためぐらつき易い。
- 骨の伸びは常に筋肉や腱の伸びより早いため、筋肉はいつも引き伸ばされた状態にあるので、過大な力が繰り返し加わると筋肉や靭帯の付着
部で微細な断裂を容易に受けやすい。
これらが絡み合って成長期特有の障害を発生します。この時期は大人を単 に小型化したものではありません。バレーボールを愛してやまない次世代をになう優秀なアスリートを育てる
ために、是非「成長期のケガ」と「成長期のトレーニング」について理解 を深めていただきたいと思います。