■はじめに
昨日、久しぶりに歌舞伎を観に行ってきました。團十郎丈、菊五郎丈に今をときめく新之助丈らの演目「摂州合邦辻」、次に、雀右衛門丈の石橋も
の「英執着獅子」と続くのですが、この「英執着獅子」は、小道具などを使った踊がメインで、様式美あふれるものです。歌舞伎など、日本の伝統
文化はこの様式美を重んじ、約束事や形の美しさを競っています。
日本のスポーツの古典とも言える、剣道も、本来は「いかに相手を殺すか」というものだったのが、江戸以降の太平の世の中で、形を重視した武芸と
なり、その後、「剣道は、剣の理法の修練による人間形成の道である。」として礼儀、勇気、信義、廉恥、克己、忍耐といった諸徳を積む「道」として発展しました。
日本人はそういった「様式美」や「武道の精神」を、心のどこかに残しているためか、海外から輸入されたスポーツでも「形」を重視する傾向があ
ります。バレーボールをビギナーに教えるとき、日本では、スパイクやパスのフォームやレシーブの構えから教えることが多いですが、アメリカでは、フォームなんかお構いなしに、低いネットでスパイクをがんがん打たせたりします。「形」よりも「楽しさ」をまず教えようとしているんです
ね。
■出力系と入力系
「形」というのは、既存概念を自分の能力を駆使し現実のものとする体現的なもので、外部環境にあまり左右されない絶対的なものです。こういう能力や技術のことを、「出力系」とか「クローズドスキル」などと言います。漠然と速く走ったり、ただ単に高く飛ぶ、といったものがこれにあてはまります。これに対し、「入力系」「オープンスキル」というものがあり、これは、ブロックを見てスパイクを打つとか、号砲と同時にすばやくスタートを切るような、外部環境に合わせて、最善の行為を成す相対的な能力や技術のことを指します。
両者共に非常に重要な能力ですが、刻一刻と状況の移り変わるバレーボールにおいては、「入力系」のスキル向上が必須です。
■スポーツビジョンとは
非常にきれいなスパイクフォームで、身長も高く運動能力に優れた選手でも、ブロックが見えないとシャットアウトされてしまいます。 「入力系」は言葉どおり、外部情報を脳にインプットするのですが、どう
いう情報かというと、「見たもの」「聞いたもの」「触ったもの」など、いわゆる五感的なものです。バレーボールではこの中で、「見たもの」を
インプットすることが大切です。スパイクを打つ動作の中でブロックを見るというような目の使い方は、日常生活ではまずありませんね。このようにスポーツで特に必要な見る能力
を「スポーツビジョン」といいます。
スポーツビションでは、視力を以下の11の項目に分けています。
- 静止視力
一般的にいう視力のこと。スポーツビジョンの全般の基礎視力であ り、両眼で1.2以上が望ましい。
- 動体視力
動体視力にはDVAとKVAの2種類がありますが、一般的に、DVAを指すことが多いそうです。スパイクやサーブのコースをすばやく判断す
るときなどに必要です
DVA(Dynamic
Visual Acuity)
目標物が水平方向に移動するのを見極める能力
KVA(Kinetic
Visual Acuity)
遠方から一直線に近づいて来るものを見極める能力
動体視力は、5才から15才頃に急速に発達し、15〜20才をピークにして後は下降線を描きます。
- 深視力
目標物に対する距離感です。サーブをあいてコートの奥深くに打つとき距離感は重要です。
- 瞬間視
瞬間的に、目標を見極める能力。スパイクを打つとき、瞬間的にどこに打つかを決める能力です。
- 眼球運動
顔は動かさず、目でものを追いかける能力です動くものを捉えるときの基本となります
- 眼と手の協応動作
見えた情報をもとに、手や体を動かす能力です。スパイク時に「ブロックが見えた」だけではどうしようもありません。「見えた」+「コースに打つ」ことが必要です。
- 輻輳・開散能力
近い距離で、行ったり来たりを繰り返すものを目で追う能力です。
- 調節能力
上記、輻輳◎開散の状態で、スムーズにピントを合わせる能力です。
- 視野
人間が目を動かさずに見られる視野は、上下60〜70度、左右は200度といわれています。ということは、真横や、さらに後ろも見えてい
ることになりますね。皆さんは、真横のものが見えますか?ピントが合っているのは注視している10度くらいであとはピンぼけの状態ですが確かに見えているのです。これを周辺視野といいます。
ビーチバレーのスパイク時、相手レシーバーの動きを見たりするときに必要な能力です。
- コントラスト感度
網膜の光感度のことです。ビーチバレーで曇天のときや、体育館の天井がグレーっぽいとき、ボールが見難い事があります。
- イメージング
いわゆるイメージトレーニングのことです。サーブを打つ際、ボールの軌道をイメージし、その通りに打てる人は、このイメージングの能力が高いといえます
■バレーボールプレーヤーは目がいい
東京メガネのHP
によると、女子バレーボールのVリーグチームと実業団チームのスポーツビジョン能力を上記項目中、輻輳・開散能力、調節能力、視野、イメージング
を除いた8項目を5段階評価で比較したところ、静止視力、KVA動体視力、DVA動体視力、眼球運動、眼と手の協応動作、コントラスト感度の6項目
でVリーグのほうがスポーツビジョンに優れているという結果が出ています。 また、バレーボール学会のHP
によると、大学女子バレー選手の視野の広さをレベル別に比較すると、レベルの高い選手の方が、視野が広いという結果を示したそうです。
これらの調査結果を見れば、スポーツビジョンは、バレーボールに必要不可欠な能力ということがわかります。
上記調査の対象になったVリーグや大学バレーのプレーヤーは、バレーボールを続けるうちに、経験的にスポーツビジョンの能力がアップしたもの
と思われますが、スポーツビジョンの能力を上げるためのトレーニングというものが存在します。
■スポーツビジョントレーニング
まず、視力が十分でなくてはなりません。両眼で1.0以下の場合は矯正が必要です。また、寄り眼や上目づかいなどの眼球運動ができることも確認してください。
- 瞬間視の能力を向上させるには
ノートにバレーボールの雑誌から切り抜いた写真を貼ってスクラップブックを作ってください。できるだけプレーヤーの視点から撮ったものが
良いです。そして、一瞬だけ開き、その後自分が取るべき行動を思い浮かべます。例えば、2枚ブロックの後ろ側から撮った写真で、スパイカー
がフェイントしようとしているところであれば、フェイントカバーに入る自分を想像します。できるだけ、瞬間的に行ってください。
- 動体視力の能力を向上させるには
バレーボールには、ボールのメーカー名がプリントされています。また、所有チームの名前や、通し番号が書き込まれていることも多いかと思います。その文字を、対人パス中に読み取り、認識するのです。最初は大
きな文字から小さな文字へと移行すると良いでしょう。
- 深視力の能力を向上させるには
先日お邪魔させていただいた「東京ヴェルディ」の練習では、対人パス前のキャッチボールを、ネットからエンドラインの9メートルの距離で
なく、ネット越しにエンドラインからエンドラインの18メートルで行っていました。18メートル先の目標にちょうど良いボールを投げるの
は深視力のなせる技です
- 眼球運動の能力を向上させるには
雨の日、車の助手席に乗ったら、動くワイパーの先っぽを注視しましょう。顔を動かさないで、眼だけで追って下さい。催眠術師のように目の
前に五円玉をぶら下げ、この動きを追っても良いです。走る電車の中から看板の文字を読むのも効果があります。眼球運動を早くすることにより、より近い位置にある看板の文字が読めるようになります。私が小学生のこ
ろ読んだ本には、当時ジャイアンツの淡口選手が「動く電車から線路の石を目だけで追いつづけた」と書いてあった記憶があります。これも眼
球運動のトレーニングですね。
眼と手の協応動作の能力を向上させるには
ここの所ちょっと低迷している広島カープですが、広島市民球場には、「アキュ・ビジョン」というトレーニングマシンが設置されています。
20年前に広島が球界で初めて導入しもので、画面(縦90センチ×横130センチ)に並んだ624個のパネルが、ランダムに点灯し、
120個触れるまでの時間が得点となるものです。この「アキュ・ビジョン」なるマシンは眼と手の協応動作の能力を向上させます。しかし、一家に1台というものではないので、ゲームセンターで「も
ぐらたたき」をやってください。同様の効果が得られます。トランプ の「スピード」も良いかもしれません。
この他にも、アシックスから「スピージョン」というスポーツビジョント
レーニングソフトが発売されています。動体視力・眼球運動・周辺視野・瞬間視の測定とトレーニングを行えるソフトです。(子供用は「天才の眼」といいます)私も一度試したことがありますが、酒の席で試したので、散々な結果でした。チーム内で競い合う「ランキング」機能などもありますので、一度お試しになられてはいかがでしょう? 定価10000円(税別)です。6人で買えば一人あたり1700円弱です。
■おわりに
どれもこれもたいしたことのないトレーニングのようですが、やれば、やらないより効果があります。スパイク時に、もともと視野に入っていた
ブロックもしっかり認識できるようになります。大切なことは「見て」「考えて」「行動する」これを一瞬でこなすことです。
ちなみに、
メジャーリグで活
躍するイチロー選手は瞬間視の能力非常に高いそうです。
コンピューターの画面に8桁の数字を0.1秒だけ表示し、瞬時に物を見
る瞬間視能力の測定で、平均正解数は4桁のところ、イチロー選手は6桁
から7桁の数字を言い当てることができたそうです。しかも、左から数字
を読もうとするのではなく、イチロー選手は右から左へ数字を読むのだそ
うです。やはり、トッププレーヤーは目がいいんですね。